037402 ランダム
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Midnight waltz Cafe 

1st Dance -第2幕-

            第2幕   邂逅

                   

 その日の夜、午後11時。怪盗の予告時間まであと1時間。南都美術館では厳戒態勢で警備がされている。今夜こそは怪盗チェリーにやられないようにと・・・。

その警備の中には、高校生探偵の真理の姿もあった。真理は怪盗チェリーが送りつけてきた予告状を見て一言、「どうして予告してくるのに、捕まらないの?」と。 その後は怪盗チェリーの手口について聞いたのだが、ある時は催涙ガス、ある時は照明のカットというように(まだまだある)手口が多彩であるということしか分からなかった。



ちなみに今回の予告状には、こう書かれてあった。



    5月27日 午前零時

南都美術館の『DESIRE』を頂きに参ります。

その時に皆様を夢の世界へとご案内いたしましょう。

                       怪盗Cherry



「たいした自信だわ。」

真理は予告状を見て、あきれたような表情をする。

「まったくだな。しかしそれも今夜まで。」

真理の後ろから、神尾哲幸警視(真理の父)の声がした。

「あら、お父様。ここに来てもいいの?」

突然声をかけられて、真理は少し驚く。

「かまわんよ。まだ時間がある。」

「お父様もたいした自信ね。」

「それはお前だろう。」

笑う哲幸。

「当然です。あのシステムがある限りね。」

真理は、そう言って不敵な笑みを、浮かべる。





5月26日、午後11時30分。町外れの教会では・・・

「まったく、30分前なのにまだ来ないの?涼は・・・。夜も遅刻なのかしら?」

「怪盗チェリーは、遅刻なんてしねぇよ。」 怪盗チェリーの姿の涼が現れる。

「わっ!びっくりした。もうちょっと早く来てよね。」 驚きながらも一言物申す雪絵。

「家を抜けだすのに大変なんだよ。それにこの仕事は、お前がどこからともなく集めてくるんだろ。」

「いいじゃない。」

顔を膨らませて雪絵は言う。

南都美術館の親子の会話と違い、緊張感の欠片もない会話ではあるが、そのことがこの2人にとってはゆるぎない自信の表れというべきか。まあ、共通点は両組ともに自信に満ち溢れているとことであろう。

「この教会だと悩みがある人がよく来るし、私の家なんだから。こんな夜遅くに女の子一人で町を歩いていたら、襲われちゃうよ。」

  雪絵の第一反駁が開始される。

  雪絵の家は教会で、ここのシスター見習いのようなことをやっている。

「だから、どうしてこう怪盗チェリーが必要なことばかりなんだよ。」

「だって、私怪盗チェリーしか頼める人いないもん。こんな厄介なことは・・・」

いつの間にか、雪絵は泣いている。

「あ、おい。分かったよ。泣くなって。行けばいいんだろ。行けば。」

「うん。」

お約束どおりの嘘泣き・・・これが雪絵、とどめの最終反駁であった。

「やれやれ、いっつもこうなんだからな。じゃ、ここに行けばいいんだな。」

雪絵にもらった地図を見て言う。

「うん、気をつけてね。」 満面の笑みで雪絵は、見送る。

「はいはい、ほんじゃまっ、いってきま~すっと。」

「ほんとに気をつけてね・・・」

(何か嫌な予感がするの・・・)

  いなくなった涼の無事を、ただただ心配する雪絵であった。





  そして、運命の邂逅の時・・・5月27日午前零時、南都美術館

「そろそろかしら。」

その真理の言葉に合わせるかのように、突然照明がカットダウンされ、漆黒の中に高々と声が響き渡る。

「皆様、こんばんは。今宵も深夜の舞踏会へようこそ!」

桜の花びらが、暗闇の中輝くように舞い散っていく。

「It’s show time!!」

その声に合わせて桜吹雪となり、警備の人達が次々と横たわっていく。

「まさか眠り薬が・・・?」

バタバタと倒れていく中で、ただ一人真理は立っている。

「予告状の『夢の世界』ってこういうことなのかしら?怪盗さん。」

「そのとおりですよ。おや、私の記憶が確かなら警備に女性の方はいなかったと記憶していますが。貴女は?」 真理の無事を意外に思っている涼であった。

「先にレディに名乗らせるつもり?礼儀を知らないのかしら?」

真理は、やや挑発的な物言いをする。

「これはこれは失礼。ご存知かと思いますが、怪盗チェリーと申します。」

それを軽くかわす怪盗。

「私は神尾真理、探偵よ。あなたを捕まえに来たの。」

「探偵ですか。覚えておきましょうか。それよりもよく起きてられますね。この夢への招待の中で。」

怪盗は、「知ってるよ」と心の中で笑いながら、せりふを言う様に話す。

「企業秘密よ、あなたにこちらの手を話す理由はないわ。あえて言うなら、もう少しひねることね。 おとなしく捕まりなさい!」

「こちらも貴女に捕まる理由はありませんので、名画を頂いて帰らせていただきますよ。」

そう言って怪盗は『DESIRE』を手に取る。絵を取った瞬間、すべてのシャッターが閉まっていき、閉じ込められてしまった。

「ほう、なかなかの手ですね。しかし・・・」

「ずいぶん余裕ね、この密室の中で。」

「ええ、まあ。 3・・・2・・・1・・・。」

ドン!

 その音とともにシャッターが爆発するのであった。

「手持ちのカードのジョーカーは最後の最後までとっておく。基本中の基本ですよ。それではGood Luck!名探偵君。」

怪盗はそういい残して去ろうとした瞬間、真理に呼び止められた。

「待ちなさい。あなたは盗んだものをどうするの?いえ、それよりもどうして盗むの?」

「・・・・・・・・。」

「せめてひとつ教えなさいよ。どうして盗むの?」

どうしても聞きたいと、叫ぶ真理。

「そうですね。ひとつ教えましょう。この『DESIRE』は悪い人に奪われたもの。私は警察でも探偵でもない。しがない泥棒。ですが誰かのためにできることは、たとえ怪盗でもできるんですよ。そして時として真実は知らないことのほうがいいことも・・・」

そう言って今度こそ怪盗は去っていった。予告状の目的を果たして・・・

「あ、待ちなさい。 ・・・行ってしまったの。」



そしてその後、怪盗チェリーが『DESIRE』を元の持ち主にこっそり返したのは言うまでもない。またその日の朝刊に怪盗チェリーと南都美術館のことが大きく載っていたことも・・・。



決して朝刊に載ることはなくても、それぞれの心に残った言葉、

「真実は知らないほうがいい・・・か。」

真理は、怪盗の言葉に答えを求めている。そして一方、

「盗むわけか・・・ 人助けとはいえ、やっぱり自分のためになんだろうな。」

涼は、探偵の言葉に対して、そうつぶやく。



  -この日の出会いが、この町を舞台とした「深夜の舞踏会」の始まりに過ぎないということは、誰一人として気づいていないのであった。



           ・・・開演の鐘の音は、未だ鳴り止まず・・・


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